鳥海山の伏流水に「ヒデキ、感激!」のCMを思い出す
月刊環境情報誌「グローバルネット」の連載「日本の沿岸を歩く」の取材で秋田・山形県を訪ねた。10月12日に家を出て、秋田県は男鹿半島、能代、象潟、山形県は酒田、鶴岡を巡った1週間。やっぱ、東北はえがったなゃ。それぞれで多くの発見があった。その中でも特に印象深かったのが鳥海山。日本海のイワガキなどの水産物が鳥海山(標高2236m)の伏流水の恩恵を受けていることを知り、湧き水の場所を探した。

東酒田駅から見る鳥海山
■雪景色の山を思い出す
数年前の冬、友人と羽越本線から見た雪の鳥海山は最高に美しかった。その時に「いつかじっくり訪ねてみたい」と思った。今回の取材では、にかほ市象潟町の象潟漁港を訪ね、漁業者からイワガキ漁の話を聞いた。その中で伏流水に興味を持った。鳥海山周辺の日本海では、海中湧水で育つ甘みのある天然岩ガキが知られている(夏場に素潜りで採取)。

小砂川海岸
海岸で自然に水が湧いている、と聞いたのだが、具体的な場所を知らないまま、探訪を始めた。象潟駅から南に10㎞ほどにある小砂川(こさがわ)海水浴場に行ってみた。山形県との県境近くにある海水浴場は、シーズンが終わり、白い波とその音だけが賑やかだった。
■親切なおばちゃんが教えてくれた
海岸でそれらしき場所を探すと、ヒューム管から水が出ているが、それがどんな水なのか分からなかった。近くの民家に尋ねようとしたが、家人は不在。海岸から道路下をくぐり、山側に向かって歩いていると、軽自動とすれ違ったので、乗っていたおばちゃんに声を掛けた。きっと先ほどの民家に戻ってきたところだろう。声を掛けて鳥海山の伏流水を見たいのだが、と尋ねた。
すると、おばちゃんは「それはね」と、待っていました、とばかりに、近くで水が湧いている場所を教えてくれた。「これに水をくんで飲んだらいいよ」と、500ccのペットボトルをくれた。後で調べると、これが
清水場の湧水「出壺(でつぼ)」
https://common3.pref.akita.lg.jp/genkimura/archive/contents-528
にかほ市小砂川
https://common3.pref.akita.lg.jp/genkimura/genre/yuri/kosagawa
歩いて数分の場所に、水がパイプで流れ出している。飲んでみると、とてもやさしい味で、本当にうまい水だと思った。おばちゃんがくれた500ccのペットボトルに水を入れた。
■迷った道で新たな民俗学的発見
さらに、おばちゃんが教えてくれた別の場所を探して、鳥海山の5合目に至る鳥海ブルーラインにやってきた。

鳥海ブルーラインから望む鳥海山
鳥海ブルーライン
https://www.yuzachokai.jp/spot/blueline/
たが、目印の建設会社がない。田んぼの中を走っていると、道端に「男性のシンボル」が林立しているのを発見。ほとんどが木製だが、石のものもあった。全国にある金精様とか陽物などと呼ばれる民俗信仰の対象だ。ここにあった男性のシンボルは長さ1m前後。調べてみると、上郷の小正月行事(横岡サエの神行事)の中に説明があった。
https://common3.pref.akita.lg.jp/genkimura/archive/contents-582
「サエの神」は、村の峠などに祭られ、外から悪鬼や疫病が入り込まないように村を守る神様として考えられているという。横岡のサエの神は、集落を通る道沿い4カ所に男性のシンボルをかたどった姿で祭られているといい、そのうちの一つだ。妊娠中の女性などにもご利益があると言われているようだ。
村を守っている神様と知りつつも、ジョークを書きたい衝動を抑えることができない。
男2人が鳥海山のふもとの道で男のシンボルを見つけた。
一人が言った。
「大したものだね。君は『オレのモノは馬も驚くくらい大きいぜ』と自慢しているが、これにはかなわないだろう」
言われたもう一人の男は、悔しさを顔ににじませて言った。
「オレの負けたよ」と素直に敗北を認めた。そして言った。
「でもな、もしオレのがもう3㎝大きかったら、いい勝負になったと思うよ」
秋晴れの空にそびえる鳥海山が笑っていた。
■クマ出没の恐怖にも負けず
地図で周辺を探すと、元滝伏流水のようだった。スマホとカーナビを併用して場所を特定し、午後4時過ぎに到着した。一人の先客は、入れ違いに帰るところだった。林の中で薄暗く、クマが出てきてもおかしくない状況。コケの生えた小道を持参した熊鈴を振り回しながら、滝まで歩いた。
滝は長さ30m、高さは5mくらい。白いしぶきを立てて流れていた。川ではなく山肌から湧いているようだ。ここでも水を口に含んでみた。やはりうまい!

元滝伏流水
鳥海山は雨や雪の降水量が多く、溶岩や空洞などの隙間に水を貯える「天然のスポンジ」だという。この山の懐の大きさを身をもって知ったのである。
■日本海の夕暮れと突然の雨
訪問時の日没時間は午後5時。日没後30分ですっかり暗くなる。急いで5合目の鉾立展望台(標高1150m)を目指すことにした。道路の電光案内で5日後から午後5時以降は道路を閉鎖するとあった。
九十九折の道をスピードを上げて登った。展望台に到着したとき、ちょうど日没の時間。日本海側の景色を見た。秋田県、山形県方面の街の明かりが見えた。その一つ一つに日常生活があるのだろう。

鳥海山鉾立展望台からの展望
稲倉山荘の売店に入ると、冷えた体が温まった。名物という、玉こんにゃくやみそ団子が、前の客で売り切れてしまった。とてもおいしそうだったので、悔しい!
夜景を堪能して、ブルーラインとは別の西側の別の道を下り始めた。すると、にわかに大粒の雨が降り始めた。対向車のない夜道をひたすら走った。平地に下りた時に雨は止んだ。鳥海山の伏流水、今度は天からの水…。ありがとう。
追伸:今回の取材にご協力いただいた皆様に、改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。
編集注意:「ヒデキ、感激!」は歌手の西城秀樹(1955~2018)が出演したハウス食品「バーモントカレー」のテレビCMの名台詞。還暦のとき、「秀樹、カンレキ!」が話題に。

