時よとまれ 君は美しい

東京オリンピックがいよいよ始まる。国立競技場の設計変更、ロゴの盗用疑惑、新型コロナウイルス感染拡大による開催延期、組織委員会の森喜朗会長の辞任などケチがついて回ったが、いよいよ開幕の時が来た。

オリンピックとなるといつも思い出すのがミュンヘン大会(1972年)の公式記録映画「時よとまれ 君は美しい/ミュンヘンの17日」(原題: Visions of Eight)。買ったパンフレットを大切に保管している。東京大会(1964年)の市川崑監督の記録映画は幼かったのでよく覚えていない。

ミュンヘン大会は開催期間中にパレスチナ・ゲリラによるテロ事件も発生した異例の展開だった。世界の巨匠8監督の短編をオムニバスにしている。市川監督は陸上100mの約10秒を超スローで捉え、アスリートたちの顔の肉が波打つ様子を追った。他の作品も勝者も敗者もともに、ただひたすら限界に挑んで力を出し切る表情が強烈な印象として残る。邦題「時よとまれ 君は美しい」が言い当てている。

同じような表現に「時よ止まれ、お前は美しい」がある。ドイツの文豪ゲーテの戯曲「ファウスト」の中で、死の直前、ファウストがつち音を聞いて口にした「人生の最上の一瞬」を意味する言葉。「お前」は人間以外を指しているという。悪魔メフィストフェレスがファウストの墓を掘っている音を勘違いしたのだが…。

ファウストに人の生き方の難しさを思う。どう生きればいいのか、その答えを探すように、アスリートたちは人生の中の一瞬に命を燃やす。さて、57年ぶりの東京オリンピックは「終わりよければすべてよし」となるのだろうか。

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